誰にでも「苦手」はある――とはいえ、全員が「特別扱い」は難しい 千葉リョウコ×はるな檸檬対談(3)

※本対談は2017年7月~8月にcakesに連載されたものを、許可を得て転載しております。

第3回 誰にでも「苦手」はある

2歳で「ラーメン」「カレー」が読めていたのに…!!

――檸檬さんのお子さんは、2歳だと読み書きはまだ…ですよね?

檸檬 読むのもまだです。なので、うちの子がどう…っていうのはないんですけど、読んでいて「全然ありうるな」と思いました。

千葉 フユが2歳ぐらいのときに、券売機に「ラーメン」「カレー」「そば」…とかって書いてあるのを見て「ラーメン」と「カレー」を読んだ…ということがあったんですよ!

檸檬 2歳で? すごい~!!

千葉 作中でも描きましたが、食べ物にすごい執着があって(笑)絵本も大好きだったので、字が読めるとかじゃなくて形で覚えてたのかなって。本当にラーメンとカレーしか覚えてなかったと思うんですけどね。

檸檬 絵本が好きで、字を判別できて、そこから読み書き障害って予想もしないですよね!

千葉 そのときは、「こんなちっちゃいのにラーメンとカレーが読めるなんてこの子天才かも!?」って思いました。図鑑も隅から隅まで読んでたし、花を摘んではこれはこの花って図鑑で調べたりしていたので、本当にまさかっていう感じで…。もし読めないんだったらもっと早くわかっていたかもしれないんですけど、重症度がそんなに高くなかったので。


第2話「全く書けないわけじゃないけれど」より/図鑑を隅々まで読んで覚えていた就学前のフユくん

檸檬 インプットはいいけど、アウトプットができないってことなんですか? 再現できないというか…。

千葉 仕組みはよくわからないんですけど、本当は読みもそんなに得意ではなくて、漢字なんかも前後の文脈で読んじゃうみたいなんです。語尾を飛ばして読んだり、読み間違えたりもするんですけど、そのくらいは誰にでもあるじゃないですか。思い込みだったり、自分がそのほうが読みやすいからとか。なので、全然気づかなかったです。いや~びっくりしました。

檸檬 名前がついて、「こういう障害です」って確定するってすっごい大きいことじゃないですか。腑に落ちる、わかるってこともあるし、名前がついていいこともあると思うんですけど、逆に、あらゆる人に障害といえるものってあると思うんです。

千葉 程度の差はあれど、苦手がないひとなんていませんよね!

檸檬 私はほんっと歴史がダメなんですよ。何を聞いても「もう死んでんじゃん!」って思っちゃって…。興味がなさすぎて、いくら覚えようとしても全然入ってこないんです。興味あるなしもサボってるとかじゃなくて、努力してもできなくて。それはいろんなひとにあらゆる方向であるんじゃないのかなあって。


第13話「フユの葛藤と将来のこと」より/努力が足りないと言われるフユくん

千葉 わかります。最近、なんでも発達障害って言い過ぎだなって思うところもあるんです。いちばん下のアキも学校でじっと座ってるのが嫌だったり、みんなと同じことをしたくなかったり…苦手な部分があって。
 真ん中のナツも絵を描くことが大好きで、絵は5時間、6時間ずっと描いてるんですけど、部屋の片づけできないですし、順序立てて複数のことをやるのが苦手なんです。寝る前に「歯を磨いて、(ぜんそくの)薬を飲んで吸入して、部屋を片づけてから寝なさいね」って4つやることを言うと、最初の1つしかできないんですよ。歯磨きだけして「おやすみ!」って寝ようとする。
 でも、だからといって生活に支障があるかというとそうでもない…歴史だってそうですよね。

檸檬 全然ない!歴史マンガ一生描かないし!(笑)
 ほんとに、みんなにそういう苦手なことはあると思うんですけど…名前がついた途端、お互いがなんか理解できるというか、納得して、支えたりできるじゃないですか。名前がない間はぼんやりとして、どう対応したらいいのかまわりもわからないまま、なんだろこれって不満だけがつのったりしちゃうんですけど。だから名前がついてよかったな、と思います。だけど逆に言うと、みんなに不得意なことがあるんだから、みんなが同じことできると思うこと自体が間違いじゃないのかな、と。

千葉 ふつうってなんだよ、って話になりますよね。

檸檬 みんなが40点以下とっちゃダメとかって、そんなの全員違うのに…知らんがな!って。学校ってすごく不自然な場所ですよね。

千葉 それそれ! 40点以下は赤点って言われても…!! こっちは88点取れてるのに、ひとつ赤点があったらもうダメなの? 留年しちゃうの? 平均してよ!って思ったりするんですけど……



第13話「フユの葛藤と将来のこと」より/障害だとわかってほっとするフユくん

「全員が特別扱いを受けるべき」とはいえ……

――単行本収録の宇野先生と千葉さんの対談でも、宇野先生が「全員が特別扱いを受けるべき」とおっしゃっていましたね。ひとりひとりが特別扱いを受けるべきで、一律に判断するのは無理がある、と。

千葉 メガネと同じなんですよね。目の悪いひとは、メガネという文明の利器があるから、みんなと同じように授業を受けられているけど、もしなかったら、同じようにはいかないですよね。
 前に、専門機関の先生が冗談のように言ってたんですけど、「何年か後には、口頭で答えたいひとこっち~!書いて答えたいひとこっち~!って分けて試験ができたらいいのにね」って。きっと書くのが苦手かどうか聞いたら、けっこう集まると思いますよ、って。

檸檬 これからどんどん変わってくるんじゃないでしょうか。

千葉 実際、もう外国では口頭の試験が導入されているところもあるそうです。

檸檬 知識ってもうメリットにならないですもんね。携帯やパソコンですぐ調べられるし。応用のほうが大切ですよね。学校が何を見たいのかというのと、本来は文字を書けるという運動能力を見たいわけじゃなくて、勉強してきたことを理解できているか…ですし。きっと今は単純にそれをやるには手が足りないんでしょうけどね。

千葉 物理的に難しいですよね。学校の教員に部活の指導までさせていいのか、なんてことが最近すごく取り上げられてますけど、まだまだその段階なので……。教員をあと3倍くらいの人数にしたら、もうちょっと細やかに対応できるんじゃないかと思うんですけどね。

檸檬 先生自身だって、時間があれば対応したいって思っているかもしれませんし、先生になりたくてなれない人もいっぱいいますよね。

千葉 ただ、専門機関の先生によると、読み書き障害かどうか判断するテストをできる先生を育てないといけないんだけど、その育成にもすごく時間がかかるそうで……いい制度はできてきているんですけど、運営する人の教育が追いついていないんですよね。現状。もうちょっとこう…やり方をなんとかできたらいいのに……って、私は考えることくらいしかできなくて(苦笑)

檸檬 こういう本が出るのは有意義だと思います。いろんな人が知るっていうのはすごく大事ですよ!


第4話「誰も気づかなかった原因」より/どうして発達性ディスレクシアはこんなにも認知度が低いのか

千葉 ありがとうございます。一人でも二人でも、こういう道があるのかって教える側の道を志してくれる若者が現れるかもしれませんしね。ボーイズたちのラブばっかり描いてないで、1冊くらいは世の中の役立つ本を…!!という思いが実現しました(笑)

檸檬 腐女子の役に立ってますよ!

千葉 いやそれはBLの読者さんにもたくさん言っていただいてて光栄なんですが(笑)違う角度からもっと…せっかっく漫画を描いているのだから、それで社会貢献できればいいなと思っていたんです。なので、ちょっとでも役に立てたら嬉しいです。

檸檬 本当に意義深いと思います!

『うちの子は字が書けない~発達性読み書き障害の息子がいます』単行本発売中!