気づかれないだけで、あちこちにいる「ディスレクシア」の子たち 千葉リョウコ×はるな檸檬対談(4)

※本対談は2017年7月~8月にcakesに連載されたものを、許可を得て転載しております。

第4回 気づかれないだけで、あちこちにいる「ディスレクシア」の子たち

――いま、NHKで発達障害プロジェクトというのを1年にわたってやっていて、いろんな特集が組まれていますが、発達障害のなかでもマイノリティとマジョリティが出てきているように思います。ASDやADHDがマジョリティだとしたら、LDは教室のなかで目立たないという点でもマイノリティ的なのかな、と。

檸檬 気づかれないんですよね。本人だって知らなければわからないし。40人クラスに3人という確率にはびっくりしました! 単純に勉強できないじゃん、と思われていた人たちのなかに、そういう人がたくさんいると思うと理不尽ですよね。

千葉 マンガにも描いたんですけど、同じマンションに住んでいるナツの友達もディスレクシアで、「本当にいた!」って驚きましたね。


第8話「あたりまえじゃない子たち」より/フユくんの妹・ナツちゃんの同級生も発達性ディスレクシアだと判定された


千葉 描くにあたって、最近どうしているかを改めて聞いたら、やっぱり苦労しているらしいです。女の子同士でバカにされたり…。

檸檬 女子のほうがきびしそう。

千葉 そうなんですよ~。親には言わないし、学校では「うまくつきあってる」みたいだけどしんどそうって、言っていました。あと、この本のポプラ社さんの編集担当の方の身近にもいたみたいです。この連載を読んで気づいたっておっしゃっていました。

檸檬 出会いってあるんですね…!

千葉 結局大人になったらiPadやパソコンがあるでしょってよく言われるんですよ。Twitterなんかだと、悪意なくそういう風に。でも、今現在、書けないっていうのでみんなと違うとか、ぼくはどうしてできないんだろうっていうのが……。

檸檬 それがすごく辛いと思いました。フユくんが、そう悩みながらも表に出さないっていうのが…すっごく辛くて……。

千葉 描き下ろしの13話は、フユにインタビューして描いたんです。「読み書き障害だって判定されたとき、どんな風に思った?」って。そしたら、「ふしぎな気持ちがした」って。私もそう言われれば確かに不思議な気持ち、しましたね。


第13話「フユの葛藤と将来のこと」より/フユくんにインタビューして描かれた回

檸檬 この回、めっちゃ辛かったです!

千葉 実は、あとがきに少し書いたんですけど、実はフユには他にも発達障害もあるんです。色々考えて、あえて確定診断は受けていないんですが、何箇所か行った病院の先生が、おそらくそうであろう、と言っていました。感情が豊かなぶん、たぶん本当に辛かったんじゃないかなあ…と。私が「なんでできないんだ!」って言っていたのにも相当傷ついていたんじゃないかと思います。

檸檬 千葉さんもお辛かったんじゃないでしょうか?

千葉 う~ん、辛かったと思うんですけど、…いいこと以外忘れようって思って(笑)。私、人生のなかで今がいちばん楽しくって、フユにも、高校までずっと辛かったとおもうけど、これから楽しいこといっぱいあると思うよって言ってるんです。
 フユ自身、学校は楽しいって言ってるんですけど、やっぱり何人かはからかってくるひとがいるみたいですね。おとなしいし、読み書きじゃないところでも苦手が出ていると思うんですよ。でも、先生の理解もあるし、クラスの子も概ねわかってくれてるし。

檸檬 高校の担任の先生、いい先生ですよね!

千葉 そうなんです、担任と副担任が、ふたりとも若いんですけど、とっても熱意があって「ぼくらが!見てますから!!」って言ってくださって…。

檸檬 最初の教頭先生もすばらしいですよね。先生ってあんなに見てくれてるんだって驚きました。

千葉 とくにいい先生でしたね。あのあと校長になって、ナツが通っているときに同じ学校に戻ってきたんですけど、朝も7時くらいから通学路にたって挨拶しているような熱心な先生で…。だから本当に、うちはいい巡り合わせが多かったんだと思います。


第2話「全く書けないわけじゃないけれど」より/最初に相談にのってくれた教頭先生(当時)

判定を受けたあとに、どうすればいいのか

千葉 専門機関も家からわりと近くにありましたし。なかには、九州とかから通っているひともいらっしゃるそうですし、更に今は対応しきれなくて受付停止していたりして…。だからこの本を読んで、うちの子もそうかもしれないと気づいたとしても、どこへ行ったらいいのか…という…。専門機関じゃなくても判定はできるそうなんですけど、トレーニングとなると難しいそうで…。

檸檬 日本でどのくらいトレーニングのできる場所ってあるんですか?

千葉 それをこの本にも載せたくて、宇野先生にもうかがったんですけど…衝撃的に少なくて公開できないんです。

檸檬 厳しいですね~。

千葉 フユが通っているLDディスレクシアセンターも今は何年待ちの状態です。フユのときはまだそんなにで2か月待ちくらいだったんですけど…。

檸檬 近くに専門機関がない、判定も受けられないひとにとっては本当に厳しいですね。

千葉 フユみたいに「もうちょっと書きたい、みんなと同じように書いてみたい」という子がいたときのつらさですよね。
 ほんとに、大人になったら手書き文字ってほとんどいらないんですけどね。私たちだってやりとりは全部パソコンだし、フユだって私との連絡はスマホで、そのやりとりは完璧に打ててるんで。そういう意味では、生活する分にはそんなに必要ないんですよね。

檸檬 なんなら口頭でも入力できますからね。

千葉 直筆の手紙なんてほとんど書きませんからね。それでもやっぱり…書けるようになりたい…と思ってる子たちに救いの手が…あればいいなと思ってるんですけど。あとは理解。

檸檬 これ読んで、自分はディスレクシアじゃないけど、そっちの研究側にまわってみたいとかいうひとが出てきて、国全体が動いたらいいなと思いました

千葉 偉い人がここに力入れるか!とか思ってくれたらいいですね~。

檸檬 文科省のひと、ひとりひとりに送りつけたいくらい! いい本でした!!

ささいな「違い」が、母親にとってはとても大きい

――特にここがよかったというシーンはありますか?

檸檬 本編もそうなんですけど、描き下ろしの最終話の足の指の話…「これはかわいいからお母さんすごくすきだよ」っていうシーンで泣いてしまって……千葉さんの母親としての姿勢がすごく表れていて、こういうお母さんだからこういう子供たちが育つんだなって…すごく思って……(泣)

千葉 わ~~ありがとうございます! はるなさんいい人すぎる…!!


第14話「これから…」より/フユくんのもう一つの「生まれつき」のこと

檸檬 本当にすてきなご家族で…。

千葉 生まれてすぐに違和感あったんですけど、あとから先生がきて説明を受けて、やっぱり…って…。私のせいだって思っちゃいますよね、それは。いくら遺伝じゃない、違うんだって言われても。妊娠中臨月に某アイドルのコンサート(しかも地方二箇所…)に行っちゃったし…とか…。

檸檬 私も出産2日前に宝塚を観に行ってました!

千葉 あ、そのあと病院の先生も「行くよね!」って言ってたとこ、よかったです!!


『れもん、うむもん!――そして、ママになる――』(はるな檸檬・新潮社)より

檸檬 うちの子には、今のところとくに変わったところはないんですけど、こういうちょっとしたことって、どんなに小さなことでも、母親にとってはすごく大きいことだと思うんですよ。子供に違うところがあるっていうのは、胸にくると思うんですよ…。

千葉 そうですね。歩けないかもって言われたことはすごくショックでした。でも、結局歩けましたしね。あと、フユが小学校高学年の時、溶接の仕事をしているうちの弟が機械にはさまれて手の人差し指の肉が縦半分もげるという事故にあいまして…。

檸檬 えええええっ、それって、元には戻らないんですか?

千葉 骨は無事だったのでだんだん肉はついてきました。ほかより細いし見た目は悪いけど、日常生活は大丈夫で。その事故があってから、大人になってけがや病気で指がなくなることもあるんだな…と。フユ本人も、更に見た目を気にしなくなったし、私自身、自分を責める気持ちがなくなりました。なので、「明るくいこうぜ!」という感じで。

檸檬 この本を読んでいて、全体的にいろんなことと照らし合わせて……たとえば、古い知り合いにすごく空気が読めない人がいたんです。話している時にすごく変な角度で入ってきたりして、家族とすら話が合わなくてちょっと孤立したりしていて、どうしてそうなるんだろうと思ってたんですけど、今思うと発達障害だったのかな、かわいそうだったなっていうのを思い出したりして…。
 もちろん、これに限らずとも、苦しみを抱えている子はいっぱいいるんだろうなあと思って、胸に来るものがありました。


第14話「これから…」より

――共通して、どんなものでも苦手をちゃんとわかることで、苦しみが軽減されることはあると思いますね。

千葉 そうですね。フユも、家で一人でいるのがいちばん楽だって言ってます。人付き合いが苦手なんですよね。影でなにか言われてるかもしれない…と考えてしまいがちなので、しんどいみたいです。なので、私は「人生のうちに2人くらい友達がいたらいいよ」って言ってます。

檸檬 2人いたらいいですよね、本当になんでも話せる友達なんて1人いるだけでも奇跡ですよ。

千葉 今友達がいないからって騒ぐほどのことじゃないよ…って。

――同じ最終話、「だんだん欲張りに…」というシーンで、この本のデザイナーさんもここで泣いたとおっしゃっていました。デザイナーさんもお母さんなんですけど…。

檸檬 ほんとわかります。すごくいい本で…泣きました。友人知人に配り歩きます。

千葉 あああありがとうございます! 私は実は『ZUCCA×ZUCA』の最終回で泣きました。妊娠中にも行ったと言いましたが、某アイドルのヲタだったので、誇らしい気持ちがよくわかって…。あと、3人目のアキくんの帝王切開の日はそのメンバーの誕生日を選びました……!

檸檬 やばーーーい!!(共感の叫び)

――対談って、思ってもみない方向に話が転がりますよね(笑)
はるな檸檬さんと千葉リョウコさんの対談は今回で最終回です。『うちの子は字が書けない』の試し読みはこちらからどうぞ。

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