2022年10月1日 講演会に宇野彰先生、千葉リョウコさんが登壇します

「うちの子は字が書けない」~発達性読み書き障害の子を育てて~

日時:2022年10月1日 14時~

会場:笠間公民館 大ホール

お申込み方法:こちらのページでご確認ください

 ※当日参加できない方向けに、YouTubeでの限定動画配信のお申込みも受け付けております。

主催:笠間市 共催:笠間市教育委員会

 

 

講演会の記録(終了分)

発達性読み書き障害に関する千葉リョウコさんの登壇、講演会についての記録です。

2018年9月17日

ディスレクシアをご存じですか?』

日時:2019年9月17日 10時半~

会場:ウインクあいち(愛知県名古屋市中村区名駅4-4-38)

主催:ディスレクシア協会名古屋

 

2018年8月4日

『うちの子は字が書けない~発達性読み書き障害の子を育てて~』

日時:2018年8月4日 13時半~

会場:笠間公民館(茨城県笠間市中央3-2-1)

主催:県立友部特別支援学校 共催:笠間市教育委員会

 

講演のご依頼は、ポプラ社のお問い合わせフォームよりお願いいたします。

著作物の利用に関するお問い合わせ>著作物の利用に関するその他のお問合せを選択し、「『うちの子は字が書けない』著者への登壇依頼」とし、詳細をご記入ください。

『発達性読み書き障害早わかりガイド』寄稿

2022年6月、練馬区社会福祉協議会 練馬ボランティア・地域福祉推進センター、練馬中央ロータリークラブ発行の『発達性読み書き障害早わかりガイド』にマンガを寄稿しました。
こちらから冊子のPDF版を閲覧できます。
マンガタイトル「読み書きが苦手なぼくたちだけどー大泉 光の場合ー」

また、冊子の発行にあたり、シンポジウムも開催されました。



​漢字を間違えていても「許してください」で万事OK!? 千葉リョウコ×山本さほ対談(3)

※本対談は2020年4月にcakesに連載されたものを、許可を得て転載しております。

第3回 漢字を間違えていても「許してください」で万事OK!?

――SNSでは誤字を指摘してまわる誤字ポリスが大量発生!?

千葉:山本さんはwebで個人的に発表されていた『岡崎に捧ぐ』が、そのまま商業連載になったんですよね?

山本:そうです。最初はnoteで公開していたんですけど、当然そのときはひとりでやっていて編集さんがいたわけじゃないし、写植の打ち方もわからなくてセリフも全部手書きでやっていたから、とにかく誤字の量が半端なかったです。そしたら…!

千葉:ああ! 誤字を指摘されるんですね!

山本:そう!! そうなんです!! めちゃくちゃ誤字を指摘されて……誤字ポリスすごい多いですよね。

 1話アップすると、何十件と誤字の指摘がくるんですよ。私も指摘されるのが嫌なので、何度も見直して確認して、よし誤字ないな…と思ってアップしてるのに……線が一本多いです…とか。こんなに字を間違えていて、見直ししていても間違えていることに気づかないんだってわかって、さすがにやばいなって思いましたね。

千葉:それでまた落ち込むんですよね。私も誤字はよくやっちゃいますよ。たとえばこの本のなかでは手書き文字の「えんぴつ」が「えんぱつ」になってました(笑)。

 事前に編集さんのチェックが入るから、印刷する前に直せていますが…。そういう意味では、山本さんはプロの漫画家が向いてたってことですよ。誤字のチェックとか写植とかは分業で、編集さんに任せられるから。

山本:なるほど! そういう考え方もありますね!

千葉:私はイラストが苦手なんです。編集さんにも「漫画だといい表情描けてるのに、表紙になるとどうして描けないの?」とかけっこうキツイこと言われたりもして…。だから最近では表紙の絵を描く前にデザイナーさんと打ち合わせをして、こういうポーズでこういう表情で…って指定してもらって、その通りに描くようにしています。センスがないところは得意な人に補ってもらおうと思って。でもそれがプロの仕事というか。分業できることは分業していけばいいと思うんです。

山本:私はファミ通でやっている連載(無慈悲な8bit)の文字が全部手書きなのでそれがしんどいです。

山本さほ『無慈悲な8bit』4巻より)

千葉:けっこう文字量多いのに、写植なしなのはどうしてですか?

山本:私は自分の字が好きじゃないから写植してほしいって言ったんですけど、編集さんはこの字がいいんだって言うんですよ。

千葉:味のあるいい字ですよね、それはわかります!

山本:そう~そう言ってくださるんですけど、頑張って調べながら書いても写し間違えて何回も直しがはいって、単行本にするときもさらに直して……しんどいです。

 実を言うと、ふきだしの中だけじゃなくて、編集さんの判断で写植にしてもらえない部分あるじゃないですか。こういう看板とかうしろの字も全部本当は写植してほしいぐらい自分の字が嫌いなんです。

千葉:ここも全部ですか!?

山本:無理なのはわかってるんですけど、そのぐらい好きじゃないんですよー!!

 千葉さんの字はかわいいですよね。学校の先生とやりとりするときは字を変えてますか? 小学生のとき、「お母さんの字」があるなって思ってたんですよ。私たちの親以上の世代かな? 明朝体っぽい、きちんとした大人の字。大人になったらあれが書けるようになると思ってました。

千葉:いえいえ、漫画のときと同じ、漫画字で先生とやりとりしてます(笑)。

――スマホがあれば大丈夫!「豊臣秀吉」が書けなくてもいい!

山本:自分の字が嫌いだとか、書き写し間違えるのが辛いとかはありますが、さっきも言ったように、もし人生をやり直せるとして、この障害がない人生と今の人生だと、今のほうを選ぶと思います。

千葉:もし漢字が難なく書けていたら美大にも行けていたかもしれませんが……。

山本:それでも、書けてないから漫画家になれたかもしれないので、このほうがよかったなと思いますね

千葉:そんな風に、自分の今の人生がいいって思えるような人生を、子どもたちにも歩んでもらえたらいいなって思います。親としてはカンニングしたっていいよとは言えないですけど(笑)、そのぐらいのとらえ方で前向きに楽観的に…というのはすごくいいなと思います! 山本さんは、漫画家にもなるべくしてなったという気がします。

 私自身は当事者じゃないので、この子はこの先どうなるんだろうと心配が先に立ってしまいますけど、山本さんはうちの娘とかぶっているところが多々あって、なんだか安心しました。約束を忘れたり、メールの返信を間違えたりしても、漫画という仕事をきちんとしていればやっていける。部屋が汚くても今は誰にも怒られない…んですよね?

山本:怒られませんね!(笑)

千葉:ナツも私から離れてひとり暮らしするようになったら、うるさいことも言われず、のびのび楽しく暮らせるのかもしれないな~。

山本:この本を買う熱心なお母さんたちが心配してるのって、「うちの子は字が書けなくて、将来本当に大丈夫なのかな」っていうことだと思うんですよ。

 私は、豊臣秀吉が書けなくても、なんとかなってますよ!!

 昔はもっと大変だったと思うんですけど、今はスマホがあるし、スマホ持ち込みのできない百貨店でも小さい電子辞書使わせてもらえたし、それさえ使えれば店長業務もできたぐらいなので、大人になったら困ることはそんなに多くないと思います。

 芸術面のほうにもし進みたいとなったら、漫画家とかクリエイターには同じく字が苦手なひとたくさんいるので、安心して…って言うと言いすぎかもしれませんが、心配しすぎなくていいと思います。

 ちなみに、私の携帯のメモ帳はこんな感じになってます。

山本さほさんの携帯電話のメモ帳の一部

山本:左手で携帯で調べながら文字を書くので、調べた字の履歴が残ってるんですよね。

 ほうふくぜっとう…てんかい…しあわせ…とか調べて、変換の漢字を見ながら書いています。こうやって調べて書けば書けるので……なんか……心配されてるお母さんがたを安心させたいんですけど、うまい言葉が出てこないな……なんとかなりますよ~! ナツちゃんもきっと大丈夫!

千葉:ありがとうございます! 山本さんの性格がとても前向きっていうのも大きいでしょうけど、読み書きが必要とされる仕事をされていたこともある山本さんがそう言っていたよ、というのは当事者にとって大きな力になるんじゃないかと思います

山本:フユくんは、ナツちゃんのように芸術面に秀でていたりはしないんですか?

千葉:フユはまったくなかったですね。今、調理の専門学校に行ってますけど、それもとくに料理が得意だとか好きだったというわけじゃなくて、自分で調理したら好きなだけウインナーが食べられるってことに気づいたのがきっかけでしたね。私が調理すると、ひとり2本しか食べられないのに、自分で調理したらウインナー一袋全部食べられるっていう(笑)。それからいろいろ料理をするようになって、嫌いじゃない、苦手じゃないって気づいたみたいですね。

山本:食欲きっかけ! ある意味、料理の才能があったといえますね(笑)

千葉:字が書けないからあれもできない、これもできない…じゃなくて、みんなそれぞれできることはたくさんあると思うんですよね。字が書けてもできないことがあるのと同じように。

――漢字を間違えてもどうか許してください。

山本さほ「きょうも厄日です」より)

千葉:山本さんが漫画の最後に描いていた「字が間違ってても許してください!」がすごくいいですよね。書けなくても「許してね!」ってそれでいいんだな、と。

山本:字が間違ってても許してください!!で許してもらえる場面って、けっこう多いと思いますよ。

千葉:「心配しすぎないでいい」というのは、親の立場ではなかなか思えないことなので、漢字が書けなくていろいろ苦労もされてきた山本さんからそう言っていただけて気持ちが軽くなりました。本日は、ありがとうございました!

――文字をたくさん書く連載がしんどいと言いつつも、終始明るく話してくれた山本さん。フユくんともナツちゃんとも違う障害のとらえ方、向き合い方には、苦手な書字をカバーする工夫をしながら自立している社会人ならではの力強さがありました。

山本さほさんの最新刊かつ、すべての文字を写植なしで左手に携帯を持ちつつ一生懸命書き写しているという『無慈悲な8bit』4巻、好評発売中!

漢字が書けないことが誇らしいと思えた出来事 千葉リョウコ×山本さほ対談(2)

※本対談は2020年4月にcakesに連載されたものを、許可を得て転載しております。

第2回 漢字が書けないことが誇らしいと思えた出来事

もし今子どもに戻れるとしてもトレーニングはしない。人生をやり直せるとして、この障害がない人生と今の人生だったら、今のほうを選ぶと思うと言う山本さほさん。そう思うようになったのは、漫画家になってからだと言います。

千葉リョウコ(以下、千葉) 山本さんがトレーニングをしないと言えるのは、ナツと同じく重症度がそこまで高くないからという面ももちろんあると思うんですけど、それでも、社会に出てからもいろいろ苦労されてきたわけじゃないですか。どうして今の人生のほうを選ぶと言えるんですか?

山本さほ(以下、山本) 字が書けなくて「いいこと」って今までなかったんですけど、漫画家になってからは受け止め方が変わりました。漫画にも描いたんですけど、この話をするたびに、尊敬する先生方からも「おれもおれも」「わたしもわたしも」って言われることが多くて、今まで漢字が書けないって言わなかっただけで、そういう方は多いんだなと思ったんです。

千葉 そういえば、私も『うちの子は字が書けない』を出した時に、漫画家の友達何人かに私もそうだよって言われて驚きました。

山本 ね、けっこう多いんですよね! そうなると、なんかうれしくなってきて「もしや私は選ばれし者!?」みたいな……(笑)

 たとえば「左利きのひとに天才が多い」とか聞くと、天才じゃなくても左利きだったらちょっとうれしいじゃないですか。そういう感じで、尊敬する漫画家の先生たちと同じっていうのが、すごくうれしくて、漫画家になるために生まれてきたんじゃないかぐらいに思えて。そうしたら、30年ぐらい漢字が書けなくて嫌な思いしてきたのが、全部ふきとぶぐらいで。

 こうやって漫画にできたのも、ちょっと誇らしいぐらいにまで感じ方が変わってたからなんですよ。

千葉 すごい! そんな風に思えるんですね!!

 山本さんのその前向きさは、どこで培われたものなのか気になります。学校の先生には、100回同じ字を書かされたりと、今考えるとひどい対応をされたこともあったわけじゃないですか。

大人になったら書けるだろうと楽観視していた。

山本 私は母から「勉強しなさい」とかもあんまり言われたことがないし、漢字が書けないこともバレてないんですけど……。

千葉 バレてないって…(笑)。

『きょうも厄日です』では漢字が覚えられないからカンニングしていたと描いていましたね。前の席の椅子の裏にカンニングペーパーを貼り付けて、上履きに鏡をつけてその鏡を読み取るというのがもう…おもしろくて……!(笑)

山本 カンニングはめちゃくちゃしてましたね。でもその方法は失敗でした。反転しちゃうから全然読み取れなくて!(笑)

 あとはふつうに前の席の椅子に貼り付けたり、当時ナイキのリストバンドが流行っていたので、その下にびっしり漢字を書いた細い紙を巻いたりしてました。これは漫画には書いてないんですけど、よくやっていたのは、教室の中の掲示物を見ることですね。私、視力がとってもいいから、壁に貼ってある掲示物の字が見えるんですよ。学級通信とかのプリントの中からテスト問題の漢字を探して写してました。

千葉 その発想がすごい~!!

山本さほ「きょうも厄日です」より)

山本 漢字が多いから、歴史も苦手でしたね。「豊臣秀吉」の「ひで」が書けない、「とよ」も怪しい…みたいな状態なので、テストではなるべく文字をちっちゃくちっちゃく書いて提出するようにしてました。そしたら、文字の内側がぐちゃぐちゃっとなって、なんとなく正しく書けているように見えるんですよ。歴史の先生はおじいちゃんだったので、それでマルをもらえていました(笑)。

千葉 高校受験ではどうでしたか?

山本 とにかく漢字が書けないだけで国語は得意だったので、そんなに問題にはなりませんでした。受験の時点では、漢字に関してはもうあきらめていましたね。小学校の時にノートにびっしり漢字同じ漢字を書いても覚えられなかったという経験をして以来、勉強していませんでした。

千葉 そのあと美大の受験もされたんですよね?

山本 美大受験は英語・国語で100点・100点、デッサンで200点の合計400点で判断されるんですけど、学科試験がまったくできませんでしたね。絵は頑張ってたんですけど…。2年浪人して…もうそれ以上は頑張れなかったですね。

千葉 国語と英語の2教科で、漢字と英単語なしで合格点数を上回るのは……そうとう大変なことですよね…!!

山本 そういう意味では、もし発達性読み書き障害だと早くにわかっていたら、最初から学科試験のない絵の専門学校に行くという選択肢も出てきていたと思うので、早くに知れていたらよかったですね。

千葉 2年浪人して大学を諦めていて、それでも悲観的になっていないのはどうしてでしょうか。

山本 美大へ行けなかったコンプレックスはありましたが、字のせいだと思っていなかったし、字に関してはすごく楽観的に、大人になったら書けるだろうって思ってたんですよね。お母さんが書けてるから、きっと私も大人になったら書けるようになってるんだろうと。20歳になって、25歳になって、「あれ?小学校の時から変わってない」って気が付いて……(笑)。

 それでもフリーターの時はそんなに字が書けないことを意識しなかったんですよ。

山本さほ「きょうも厄日です」より)

漢字が書けないことで、親に怒られたことはなかった。

千葉 漢字が書けないことを意識したきっかけは?

山本 アパレルの会社に入って店長になったことですね。毎日日報を手書きで書かなければいけない環境だったので辛かったです。

 それと、お店が百貨店にあったのでお客様に粗相があると謝罪文を書かなきゃいけなかったんですが、それがもう書けなくて…。ひらがなが多い謝罪文は馬鹿にしてるみたいに取られてしまうし、誤字脱字なんてもってのほか。綺麗な字で漢字もたくさん使って書かなきゃいけなかったので何回も書き直しをさせられて辛かったですね。その時にすごく「字が書けない」ということを意識して、インターネットではじめて調べたのもそのころだと思います。それまではこういう障害があるって言うことも知らなかったし。

 親がもっと勉強しなさいってタイプで、あんたバカだとか言われ続けていたら、自分でも「漢字も書けないし、わたしってバカなんだ。頭が悪いんだ」って思って育っていたかもしれないな、と思います。

千葉 実際に、それで鬱になったりと二次障害を発症してしまうお子さんもいるみたいです。

 山本さんのお母さんは、まだ発達性読み書き障害という言葉もないころから、自然に山本さんのそのままを受け止めてくれていたんですね。それが山本さんの前向きな性格につながってる気がします。

山本 ラッキーだと思うんですけど、うちの親は苦手なことを無理やりさせたりしなかったし、とにかく「できること」をほめてくれてたんですよ。うちには、100点をとった答案用紙を入れる箱…せんべいのカンカンがあったんですよ。それがいっぱいになると、お母さんがおばあちゃんに自慢しに行くんです。「さほがこんなに100点をとった!」って。母からはよく「頭がいい」「頭がいい」って言われていたんで、自分でも頭いいって思ってたんですよね。できないことも責められないし、頭いいとよく言われていたので、漢字が書けなくても自己肯定感が下がるということがなかった。

千葉 すごくいいお母さん……!!

山本 あとは、得意なことを伸ばすというか、お絵描き教室とかにも通わせてくれて、絵もすごく褒めてくれて……。もし、絵なんか描いてないで勉強しなさいって言われていたら、今の私とはまったくちがう人生になっていたと思います。

千葉 わかっていてもつい怒ってしまうことがあるので、身につまされる思いです。

山本 でもそれは字が書けないことで…じゃないですよね?

千葉 部屋が汚いこと…ですね!(笑)

 ただ、ナツの場合、片付けられないのもADHDの特性なんです。ごみが床に落ちてること、散らかっていることにそもそも気づいてないから、片付けもできない。わかっているのに、私はつい「ここにもごみ…ここにもごみ…」と、言っちゃうのでダメですね。勝手に片付けるのも嫌がらないし、ものの場所が変わっていても気づかないぐらいだから、本人がいないときにこっそり掃除してやればいいんでしょうけど。

山本 私も部屋が汚いことはめちゃくちゃ怒られてましたよ。部屋で食べ物が腐ってたこともあります(笑)

苦手より、得意な世界で活躍できるようになってほしい。

山本 ナツちゃんも絵が得意って書いてあったので、字のいらない、字と関係ない世界にいければいいですよね。

千葉 ナツの絵、見ます? 親ばかを発揮しちゃいますけど……(スマホを取り出す)

 宇野先生にも親ばかでうまいうまいって言ってるって思われてたんですけど、本当に上手なんですよ!! ほら!

山本 わっ、うまい!! えええ、すごいうまいじゃないですか? 高校生!? この絵で漫画かいたら人気出そうですよ~!!

千葉 ところが漫画を描くのは難しいそうです。お話をつくるときに、考えている物語を字にして書いたりするのが苦手っていう部分があるそうで…。でも、これからは少しずつ描いてみたいと思っているみたいです。

 ナツはADHDASDも併発していて、読み書きだけじゃなくてそちらの影響でも苦手なことがとっても多いんですよ。たとえば〆切を守るとかも難しい。一度、私がアシスタントとして仕事を依頼したことがあるんです。そしたら納期までに仕上げたのに、送らないで自分のパソコンにデータを置いたまま出かけちゃったんですよ。仕事は描き終わったら終わりじゃなくて、納品するまでが仕事!!!と注意しました。

山本 う……私もスケジュール管理が苦手で……。

千葉 苦手とはいえご自分で全部できてるんですよね_

山本 できてる…と言っていいのかな。複数の仕事相手とやりとりしていたらメールの送り先や内容を間違えたり……ほかにもいろいろ言えないこと……ありますね。年に2回ぐらい本気で忘れることあります。打ち合わせに行かなかったり、生放送に遅刻したり

千葉 打ち合わせはともかく生放送……は、やばいですよね!?

山本 急いでタクシーに飛び乗って、1時間遅れぐらいで参加して…その場はなんとかなりましたけど、あとからやっちゃったことに対してすごく落ち込むので…それを年に1~2回…なくしたいですね。できればマネージャー的なひとがついてくれたらいいな、と思います。締め切りの管理を「いつまで!」ってばしっとしてくれるひと……。

千葉 私は、漫画は大したことないけど、そういうマネージメント能力だけで漫画家やっているようなもんですよ。締め切りを守ること、返信・対応の早さを売りに生きてるんで。

山本 それ……お母さん、マネージャーどうですか?

千葉 は! そんな手が…!? マネージメント料もらえるなら、スケジュール管理とクライアントとのやりとりできますよ。それ、いいかもしれない~!! 今度ナツにも話してみます。苦手を補完するという意味でもいいですよね。いいこと聞いた(笑)

山本 頼りになるお母さん!!! いいんじゃないですか?

『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』でも宇野先生が、その子の状態を親が受容し、苦手を責めずに、ほかのところで認めてあげることで、子は自信を喪失せず明るくいられるとおっしゃっていました。山本さんの前向きで明るい様子から、その言葉の大きさを感じました。

漢字が覚えられないなら、カンニングすればいい!? 千葉リョウコ×山本さほ対談(1)

※本対談は2020年4月にcakesに連載されたものを、許可を得て転載しております。

第1回 漢字が覚えられないなら、カンニングすればいい!?

千葉リョウコ(以下、千葉) 山本さんが漢字が書けないということを描かれた漫画、読みました。絵では土下座していますが、笑える描き方で「間違えててもどうか許してください」と言っているのがいいな、と思いました。子ども時代の描写も書けなくて困ったとか辛かったではなく、漢字を覚えられないならカンニングしてテストをやりすごそうという考えも目からうろこというか……ある意味すごく前向きで……この考え方、天才ですね…!!(笑)

山本さほ「きょうも厄日です」より)

山本さほ(以下、山本) ありがとうございます(笑)。私は、この障害について全然知らなくて、ネットで検索してどうやらこれっぽいな…と思っただけだったので、『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』とその前の『うちの子は字が書けない』を読んで、私はこれだったんだっていうことが初めてよくわかりました。この「発達性読み書き障害」って、私が子供のころからあった言葉なんですか?

千葉 山本さんが子供のころにはなかったと思います。宇野先生の日本語の発達性読み書き障害の論文がはじめて受理されたのが2008年だそうです。だから、発達性読み書き障害という言葉が日本で使われるようになったのはこの十数年のことだと思います。

山本 そんなに最近のことなんですね! そのころ、私はもう20代で勉強から離れていたので……宇野先生の論文がもう少し早く出てくれていたらな~~(笑)。

 小学生のころの私は、結構わかりやすく他のことはできていて、本当に漢字だけが駄目だったんです。特別頭がいいというわけではないんですが、小学校までは全体的に成績がよかったのに、漢字のテストだけが5点とか10点とかで…なんで書けないんだろうって思っていました。

地図や記憶は立体だけど、漢字は平面だから覚えられない。

千葉 山本さんの作品を読んで、すごく頭がいい方なんだなと思っていました。『岡崎に捧ぐ』をはじめ、作品の中で昔のことをとっても細かく描いてらして。私は、とくに嫌なことは本当にすぐ忘れてしまうので記憶が全然ないんですよね。フユくんのことはいつか漫画に描こうと思っていて、メモしていたから描けました。

山本 中学校からの中学校からの成績はどん底でしたけどね(笑)。

 漢字ってすごく平面的な形じゃないですか? 私、地図を読むのがすごく得意なんですけど、地図って立体物なんですよ。私の中では。普通の町の地図を見ただけで、自分がここに立っていて、右にこういう建物があって…っていうことが、全部立体になって頭の中に思い浮かぶんです。海外でも、事前に地図を見て、ホテルがここにあって目的地はこことここで……ということを覚えておくと、まったく迷わず目的地に行けたり。

 それと同じで漫画に描いてるような過去の記憶も全部立体なんです。こういう事件があったとき、私はここに立っていて、右に岡崎さんが立っていて、私はここからそれを見ていた……みたいな。

 だから自分ではそういう風景を覚えるところに能力が特化していて、文字とか平面的なものとかを覚える能力が欠落しているのかなとずっと思っていました。

千葉 専門的なところは私にはわからないんですが、検査をしてみたら、そういう能力の得意不得意があることがわかるかもしれませんね。でも、山本さんは、字が書けないことが障害だとわかっても、診断を今から受けようという感じではないんですよね?

山本 そうですね。今から診断を受けたいとは思いません。だけど、症状はお兄ちゃんのフユくんとよく似ていて、本当にびっくりするぐらいでした。性格はどっちかって言うと妹のナツちゃんと似てるので、ふたりがミックスされた感じです(笑)

千葉 フユと症状が似ているということですが…?

山本 読むのは漢字も読めるし、ひらがなカタカナは書けるけれど、漢字が書けませんね。板書を写すのが大変というところ、本当にうなずきながら読みました。私も黒板を写すのがすごく嫌でした。キーボードがひらがな入力というのも同じです。

 あと、私も親の名前や住所が漢字で書けないですね。今のところに3~4年住んでて、それでも覚えられなくて、必要なときはスマホで見ながら書いてます。

千葉 親の名前はとくに、あんまり書く必要に迫られる場面もないですしね。私はもう子どもたちがこうなので、見ながら書けたらそれでよくない? なんの問題があるの?? 必要がないなら書けなくていいんじゃない? と思うんですけど、親の名前や住所が書けないって言うと、常識がないって驚かれたりしますよね。

山本 でも何度書いても覚えていられないんですよ。学校の先生には居残りさせられて、同じ字を100回書かされたりしたことがあるんですけど、これはまさにナツちゃんと同じで、100回書いた直後にその字を書くのはできるんです。だから、100回書かされた直後のテストなら点が取れる。でも、その時のためだけに覚えてるってかんじで、すぐに記憶からなくなっちゃう。

千葉 一度覚えた漢字でも、使ってないと忘れちゃうんですよね。フユもそうですよ。つい最近も「お弁当がいる曜日を書いて冷蔵庫に貼っておいて」と言ったら、「火・水・」って書いてありました。「金」を書こうとしたんですね。山本さんは、何年生ぐらいまでの漢字だったら、見ないで書けますか?

山本 うーん、小学校ぐらいまでですね。小学校4年生ぐらいまではだいたい書けます。高学年で習う漢字はあやしいかな……でも、中学校で習う漢字でも簡単なものであれば書けます。でも、私の場合は精神的なものにすごく左右されるんですよ。

千葉 漫画でもサイン会では普段書ける漢字も書けなくなるって描かれてましたね。

山本 そうなんです! 緊張するとダメですね。字の間違いを指摘されて恥ずかしい思いをした経験が多くて、自信がなくなっちゃってるので。落ち着いた環境であれば、小学校で習う漢字はだいたい書けると思います。

山本さほ「きょうも厄日です」より)

千葉 アルファベットや英語はどうですか?

山本 アルファベットは書けるけど、英単語になると書けませんね。だいたいこうかな?と思って書いたりしたこともあるんですけど書いてみたら違っていて指摘されるという経験が積み重なっていて……絶対に調べないと不安です。

千葉 ナツは読むのも、woodやbookなど同じアルファベットが2つ続くものは何となく見たら分かる…というぐらいだそうです。bとdの見分けもつかない。

(千葉リョウコ『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』より)

千葉 とはいえ、私も英語が苦手でスペルを間違えたまま印刷までいっちゃったことがあります。なので、間違えてしまって恥ずかしいという気持ち、間違えたことが積み重なって自信が持てなくなるという心境はわかります。間違えて書くより、調べて見ながら書いたほうがいいですよね。

山本 ご著書を読んで、ここまで理解して一緒に考えてくれるお母さんってすごく心強いなと思いました。

千葉 私、パズルがとっても苦手なんですよ。平面のパズルとかルービックキューブとか、今だとタブレットスマホで子どもがやるような知育ゲームとか……ああいう子供でもすいすい解けちゃうようなパズルが全くできないんです!

 私がどれだけ考えてがんばってもできないことを、子どもたちがさらさらとやっているのを見て、うちの子たちにとっての板書や字を書くことというのはこういうことなのかなって思いました。

 ただ私の場合は、そのとびぬけた不得意がゲームなので、できなくても日常的に全く困らないので問題にならないんですが、もしこの世の中が文字の読み書きと同じぐらいパズルの能力を求められる場所であったとしたら、私はすごい障害があると言われたと思います。

山本 それが評価される世界だったらそうだったかもしれませんね。

千葉 山本さんの地図を読む力、思い出を覚えておく力が評価される世界だったら、ものすごい人だ!!!ってなっていたかもしれませんよ。あ、でも山本さんの場合は、過去の出来事を漫画にしてすでに評価されてますね。

公表したことによる反応は?

千葉 私は前作を出したとき、子どもがいることも公表していなかったので、子どもが3人もいることがBLの読者さんに受け入れてもらえるかどうか、子どもに障害があること、障害のある子のお母さんという立場、そういう見られ方をすることに不安を感じて長く体調を崩しました。

 だけど、体調が戻ってきたら、本当に描いてよかったという思いが強くなりました。ポプラ社さんに届いたハガキやAmazonのレビューなど、とってもしっかりした感想が書かれていて力になりました。

山本 私の書字障害の回も「私もです」というリプライがたくさん来ました。

 みんな言ってほしかったし、症状に名前をつけてほしいって思っていたひとがたくさんいたんだと思います。私の漫画もだけど、千葉さんの作品は本当に多くのひとを勇気づけたと思います…。

千葉 山本さんにもそう言っていただけて、改めて描いてよかったなと思います。

山本 タイミングもきっとよかったんですよね。ADHDとか発達障害が誰もが知ってる言葉になったのって、ここ5年ぐらいじゃないですか?

 これから、発達性読み書き障害、発達性ディスレクシアや発達性ディスグラフィアも知られていくんだと思います。

千葉 前作のポプラ社の担当さんが発達性読み書き障害の知られなさについて「発達障害のなかでもマイノリティですよね」って言ってたんですけど、本当は出現率から見るといちばん多いとまで言われてるんです。

山本 じゃあ本当に、自分が発達性読み書き障害だと気づいてない人のほうが多いんですね!

千葉 うちの子たちもそうですが、ADHDASDと併発している例も多いそうで。そういう場合は、行動面の問題のほうに注目されて、学習面での困り感が見過ごされてしまうこともあるようです。

山本 こういうことを、親になるひと全員に知ってもらうのって難しいと思うんですよね。

 だからこそ、先生たち全員にこの本読んでもらいたいですね。学校には毎年毎年あたらしい生徒たちが入学してくるわけですから…40人のうちに3人の確率だったら、担任が変わるたびに発達性読み書き障害がある子に出会う可能性がありますよね。

千葉 山本さんやナツのように、ひらがなカタカナ、簡単な漢字が書けていると、親が気づくのは難しいですよね。

 でも、今でもまだ発達性読み書き障害の子どもが、普通に教室にいることを知らない先生のほうが多いでしょうね。うちの子たちの通う学校の先生にはこの本を差し上げて読んでもらったんですが、「どこまで読めないんですか?」とか「本当に書けないんですか?」「どこから書けないんですか?」といろいろ聞かれましたね。

山本 想像できないんでしょうね。書けないっていうことそのものが。

千葉 「先生はできるから、できない子の気持ちはわからないよね~はっはっは」ってナツは笑ってましたね。中学くらいからそういう達観したところがありました。

もし人生をやり直せるとしても、今の人生を選ぶ。

山本 学校の先生にはなにも気づかれませんでしたが、実は「発達障害なんじゃないの?」「学習障害なんじゃないの?」って指摘されたことはあるんですよ。

千葉 え、面と向かってですか?

山本 ブログで字が苦手だっていう記事を書いたら、「あなたは障害です」というコメントがついたんです。

 とにかくすごい長いレスで、これこれこういう障害で…って説明してくれてたんで、今思うと親身になって一生懸命教えてくれてたと思うんですけど、 私それを普通にアンチだと思って無視しちゃってたんです。

千葉 こういう障害があるって言うことをそもそも知らずに、いきなり「あなたは障害です」って知らないひとから言われたら身構えちゃいますね。

 もし…もしもですよ、今小学生に戻れて、こういうトレーニングをしたらもっと漢字が書けるようになりますよと言われたらどうします?

山本 やりません!

千葉 即答! ナツと一緒だ!!(笑)

山本 やんないやんない! 大変や辛いの嫌なので。勉強したくないです! ダイエットで毎日10分運動するのも無理だし、なんなら青汁を飲むだけでも毎日なんて無理なので、トレーニングはもっと無理です! それで美大に行けたかもしれなくても無理!!

  それに……今も苦労はありますけど、もし人生をやり直せるとして、この障害がない人生と今の人生だと、たぶん今のほうを選ぶと思います。