子どもの幸福とは何か。進路、就職、将来のこと… 千葉リョウコ×はるな檸檬対談(2)

※本対談は2017年7月~8月にcakesに連載されたものを、許可を得て転載しております。

第2回 子どもの幸福とは何か。進路、就職、将来のこと…

――ひとり育児と、二人目の産後鬱で落ち込んでいる千葉さんに、フユくんの「字が書けない」問題が浮上して…? 

精神の不調、学校への相談、通級を経て、ようやくわかった「原因」

千葉 夫婦の役割分担というか、夫は家のこと・子供のことには口を出さないことになってたんです。その分仕事を一生懸命やってきてって。でもそれにも限界が出てきて…子育てがあまりにも辛くて、私自身が心療内科に通った時期があったんです。「どうして子育てがこんな大変な状況なのに夫は助けてくれないんだろう」って思っちゃって、夫に腹が立ってたんです。


第3話「字が書けない原因」より/「字が書けないこと」を楽観視する夫に詰め寄る千葉さん

千葉 だけど、心療内科の先生とのカウンセリングで「それ、だんなさんのせいじゃないですよね。怒りの原因をたどると、お子さんの発達のことが気になっていて、どんなに教えてもできないっていうところがネックになっていますよね。それをだんなさんにぶつけているだけですよね? まずはお子さんの発達のことを、相談されてみてはどうですか?」って諭されて、それで学校に相談に行ったんです。そこから通級に通うようになって…。

檸檬 通級に通い始めてからディスレクシアだって判定されるまでも長いですよね。3年以上も…。

千葉 特別支援の先生が見てくれているはずなのに、誰も「読み書き障害」だとは気づかなかったんです。檸檬さんは、「発達性ディスレクシア」のことはご存じでしたか?

檸檬 トム・クルーズのことは聞いたことがあって、読み書きができない人がいるっていうのは知っていたんですけど、こんなに具体的にここまで詳しくは知ったのははじめてでした。

千葉 そうですよね。私も、講演会に行ったのは本当に偶然で。たまたま通級でチラシをもらって行ってみたら、専門機関の先生がお話をしてて、やっとわかった…という…。

檸檬 本当に偶然が重なって…ってかんじですね。


第3話「字が書けない原因」より/はじめて「発達性ディスレクシア」を知った千葉さん

千葉 だから、見つかったのは「ラッキー」ていうと、言い方がアレですけど、今も気づかないで過ごしている子がたくさんいるのかなあ…って。『うちの子は字が書けない』の連載がはじまってから、Twitterの引用RTとか、リプライでご自分の経験を聞かせて頂くことがすごく増えたんですけど、その中に「もしかして私も…」という人もけっこういらっしゃるんですよね。原因がわからず苦労してきた人がいるんだなあと改めて思いました。

檸檬 本に収録されている対談で、監修の宇野先生が同級生とのエピソードをお話しされていたじゃないですか。同窓会で数十年ぶりに会った同級生に宇野先生のされている仕事の話をしたら、「俺もそう(ディスレクシア)なんだよ」って言われたっていう…。

千葉 魚市場で働いている同級生のお話ですね。

檸檬 ああいう風に、読み書きと関係ない仕事について乗り切っちゃうひともいらっしゃるんですね。

千葉 そういうほうがいいみたいですよね。ペーパーテストを受けないといけないような、苦手な方面にあえて行かないほうがいいって、私も思います。

檸檬 宇野先生が、大学は行く必要ないってはっきりおっしゃっていたのがいいなあって思って…! 今、大学を出たひとたちがたくさん失業していたり、手に職があるひとが有利なこともあったりして、ちょうど価値観が過渡期にあるのかなって。

千葉 最近、そういうことも多いですよね。私の友達なんかみんな漫画家なんで…はるなさんもそうじゃないですか?

檸檬 私あまり漫画家の友達が多くなくて…。

千葉 えっ、そうなんですか? やっぱりヅカヲタ…?

檸檬 ヅカヲタの職業は多岐に渡っていて、いろんなところに潜入しているので、「手に職」系が多いというわけじゃないですね。

千葉 『ZUCCA×ZUCA』読んでいても、確かにそうですよね。


『ZUCCA×ZUCA』(はるな檸檬講談社)より/ヅカヲタだった保育園の先生と宝塚劇場で再会する元園児たち

千葉 実は、知り合いの方に「今度宝塚観に行きませんか?」って声をかけてもらって……。

檸檬 えーーーっ、行ったんですか!?

千葉 いや、これからです。11月の…

檸檬 あ、11月! 11月ですね!! よし!! ちょっといろいろ解説とかメールでお送りしていいですか?組やトップや演出家の特徴とかね、前知識あるのとないのでは全く観劇が変わりますから。いろいろ見所とかわかった上で観てもらわないと。

千葉 超欲しい!!! 私、勉強してから行くタイプなんですよ。

檸檬 素晴らしい!! それすごい大事ですよ……って、こんな対談じゃない!!(笑)

――対談って、思ってもみない方向に話が転がりますよね(笑)

檸檬 わっ、すみません…宝塚というとつい…!…えっと、えー、大学!大学に行かなくてもいい道があるっていうのは希望だな、と。

「幸福」は量れない

千葉 本当にそうですよね。うちの子(フユ)も大学に行ける気がしないです。赤点が多いですし。とはいっても、決して勉強ができないわけじゃないんですよ。歴史なんかすごく好きで詳しいんですけど、日本史と世界史だと、日本史のほうが漢字で答えなきゃいけない問題が多いから点数が格段に低い。


第11話「赤点という壁」より/好きで詳しいはずの日本史で赤点をとってしまったフユくん

千葉 でも、点数が取れる世界史よりも好きで勉強してて、選択科目でも楽しい日本史を選ぶって言うんです。確かに、興味の薄い授業を受けるより、点数は取れなくても楽しいほうがいいよね、って。とにかく留年さえせずに卒業できればいいんだから…と思っています。卒業後は料理の専門学校って自分の中で決まっているようだし、楽しく高校生活送って欲しいと。

檸檬 幸福は量れないですから。大学を出ていいお給料もらっていても幸せじゃないひともいるし。傍目には幸福そうに見えても…。そういう意味では、そもそもフユくんの場合は、家族のなかに愛情があるなあって読んで思って、そのことがすばらしいなあって…。

千葉 最初の話に戻りますけど、自分が辛いと子供達も辛いんだなって、私が精神的に参っているときに思ったんですよね。カウンセリングでアドバイスをもらったように子供の発達のことを一生懸命やりはじめたら私自身は元気になってきて、そんなに長く(心療内科には)通ってはいないんですけど。


第14話「これから…」より/「いつもニコニコしてな!」とフユくんに語る千葉さん

千葉 ディスレクシアだとわかってからは「この子はこうだから、これでいいんだ!」って思い切れるようになったんですよね。最終回(単行本収録の14話)で描いた「いつもニコニコしてな!」っていうのは、もともとうちの母(フユくんの祖母)が私によく言ってたことなんですよ。表面上だけでもニコニコしていたら、それが本当になることもあるかなって。

檸檬 引っ張られるってこと、ありますよね。お母様も素晴らしいなって思いました! 単行本描き下ろしの4コマ読んで感動しました。

千葉 よく「あんた偉いわね」って言ってくれるんですよね。ただ…子供に対しては褒めるばっかりっていうのも…できませんよね。檸檬さんは褒めてますか?

檸檬 あ、私は褒めしかしないんです。

千葉 えっ、えらすぎる! スゴすぎる!

檸檬 わりとうちの子が、感じやすいというか、敏感ですっごくマジメなんですよ。まだ2歳なんですけど、保育園の様子とか見ていると、たとえば「片づけよう」って言われたら、片づけている間に私がお迎えに行っても、必ず片づけが終わってからでないとこっちに来ない…というようなマジメなところがあるので、注意すると真に受けすぎる感じがして、できるところを褒めるほうに…。子供の性格にもよると思うんですけど。


「子育てデレデレ日記」#2(はるな檸檬講談社)より/包丁の入っている引き出しを開けたらダメだと注意したら……

千葉 あ~うちのいちばん下の子がそれに近いかもしれません。4歳ぐらいまで憎いと思ったことがなかったので(笑)

檸檬 憎い(笑)

千葉 上の子2人はけっこう憎いと思うときありました(笑)

檸檬 兄弟で全然キャラが違いますよね。

千葉 違いますね! 真ん中の子は完全にオタクですし…。

檸檬 兄弟のなかでいちばん天真爛漫そうですよね。

千葉 ほんとマンガの通りの性格で、いつも明るくてポエムなことを言っていて、夢いっぱい…って感じの子です(笑)

――第3回は、「障害」と名前がつくこと、「特別扱い」についてのお話しです。2歳で「ラーメン」「カレー」が読めていたのに、いつまで経っても字が書けるようにならなくて…⁉
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