気づかれないだけで、あちこちにいる「ディスレクシア」の子たち 千葉リョウコ×はるな檸檬対談(4)

※本対談は2017年7月~8月にcakesに連載されたものを、許可を得て転載しております。

第4回 気づかれないだけで、あちこちにいる「ディスレクシア」の子たち

――いま、NHKで発達障害プロジェクトというのを1年にわたってやっていて、いろんな特集が組まれていますが、発達障害のなかでもマイノリティとマジョリティが出てきているように思います。ASDやADHDがマジョリティだとしたら、LDは教室のなかで目立たないという点でもマイノリティ的なのかな、と。

檸檬 気づかれないんですよね。本人だって知らなければわからないし。40人クラスに3人という確率にはびっくりしました! 単純に勉強できないじゃん、と思われていた人たちのなかに、そういう人がたくさんいると思うと理不尽ですよね。

千葉 マンガにも描いたんですけど、同じマンションに住んでいるナツの友達もディスレクシアで、「本当にいた!」って驚きましたね。


第8話「あたりまえじゃない子たち」より/フユくんの妹・ナツちゃんの同級生も発達性ディスレクシアだと判定された


千葉 描くにあたって、最近どうしているかを改めて聞いたら、やっぱり苦労しているらしいです。女の子同士でバカにされたり…。

檸檬 女子のほうがきびしそう。

千葉 そうなんですよ~。親には言わないし、学校では「うまくつきあってる」みたいだけどしんどそうって、言っていました。あと、この本のポプラ社さんの編集担当の方の身近にもいたみたいです。この連載を読んで気づいたっておっしゃっていました。

檸檬 出会いってあるんですね…!

千葉 結局大人になったらiPadやパソコンがあるでしょってよく言われるんですよ。Twitterなんかだと、悪意なくそういう風に。でも、今現在、書けないっていうのでみんなと違うとか、ぼくはどうしてできないんだろうっていうのが……。

檸檬 それがすごく辛いと思いました。フユくんが、そう悩みながらも表に出さないっていうのが…すっごく辛くて……。

千葉 描き下ろしの13話は、フユにインタビューして描いたんです。「読み書き障害だって判定されたとき、どんな風に思った?」って。そしたら、「ふしぎな気持ちがした」って。私もそう言われれば確かに不思議な気持ち、しましたね。


第13話「フユの葛藤と将来のこと」より/フユくんにインタビューして描かれた回

檸檬 この回、めっちゃ辛かったです!

千葉 実は、あとがきに少し書いたんですけど、実はフユには他にも発達障害もあるんです。色々考えて、あえて確定診断は受けていないんですが、何箇所か行った病院の先生が、おそらくそうであろう、と言っていました。感情が豊かなぶん、たぶん本当に辛かったんじゃないかなあ…と。私が「なんでできないんだ!」って言っていたのにも相当傷ついていたんじゃないかと思います。

檸檬 千葉さんもお辛かったんじゃないでしょうか?

千葉 う~ん、辛かったと思うんですけど、…いいこと以外忘れようって思って(笑)。私、人生のなかで今がいちばん楽しくって、フユにも、高校までずっと辛かったとおもうけど、これから楽しいこといっぱいあると思うよって言ってるんです。
 フユ自身、学校は楽しいって言ってるんですけど、やっぱり何人かはからかってくるひとがいるみたいですね。おとなしいし、読み書きじゃないところでも苦手が出ていると思うんですよ。でも、先生の理解もあるし、クラスの子も概ねわかってくれてるし。

檸檬 高校の担任の先生、いい先生ですよね!

千葉 そうなんです、担任と副担任が、ふたりとも若いんですけど、とっても熱意があって「ぼくらが!見てますから!!」って言ってくださって…。

檸檬 最初の教頭先生もすばらしいですよね。先生ってあんなに見てくれてるんだって驚きました。

千葉 とくにいい先生でしたね。あのあと校長になって、ナツが通っているときに同じ学校に戻ってきたんですけど、朝も7時くらいから通学路にたって挨拶しているような熱心な先生で…。だから本当に、うちはいい巡り合わせが多かったんだと思います。


第2話「全く書けないわけじゃないけれど」より/最初に相談にのってくれた教頭先生(当時)

判定を受けたあとに、どうすればいいのか

千葉 専門機関も家からわりと近くにありましたし。なかには、九州とかから通っているひともいらっしゃるそうですし、更に今は対応しきれなくて受付停止していたりして…。だからこの本を読んで、うちの子もそうかもしれないと気づいたとしても、どこへ行ったらいいのか…という…。専門機関じゃなくても判定はできるそうなんですけど、トレーニングとなると難しいそうで…。

檸檬 日本でどのくらいトレーニングのできる場所ってあるんですか?

千葉 それをこの本にも載せたくて、宇野先生にもうかがったんですけど…衝撃的に少なくて公開できないんです。

檸檬 厳しいですね~。

千葉 フユが通っているLDディスレクシアセンターも今は何年待ちの状態です。フユのときはまだそんなにで2か月待ちくらいだったんですけど…。

檸檬 近くに専門機関がない、判定も受けられないひとにとっては本当に厳しいですね。

千葉 フユみたいに「もうちょっと書きたい、みんなと同じように書いてみたい」という子がいたときのつらさですよね。
 ほんとに、大人になったら手書き文字ってほとんどいらないんですけどね。私たちだってやりとりは全部パソコンだし、フユだって私との連絡はスマホで、そのやりとりは完璧に打ててるんで。そういう意味では、生活する分にはそんなに必要ないんですよね。

檸檬 なんなら口頭でも入力できますからね。

千葉 直筆の手紙なんてほとんど書きませんからね。それでもやっぱり…書けるようになりたい…と思ってる子たちに救いの手が…あればいいなと思ってるんですけど。あとは理解。

檸檬 これ読んで、自分はディスレクシアじゃないけど、そっちの研究側にまわってみたいとかいうひとが出てきて、国全体が動いたらいいなと思いました

千葉 偉い人がここに力入れるか!とか思ってくれたらいいですね~。

檸檬 文科省のひと、ひとりひとりに送りつけたいくらい! いい本でした!!

ささいな「違い」が、母親にとってはとても大きい

――特にここがよかったというシーンはありますか?

檸檬 本編もそうなんですけど、描き下ろしの最終話の足の指の話…「これはかわいいからお母さんすごくすきだよ」っていうシーンで泣いてしまって……千葉さんの母親としての姿勢がすごく表れていて、こういうお母さんだからこういう子供たちが育つんだなって…すごく思って……(泣)

千葉 わ~~ありがとうございます! はるなさんいい人すぎる…!!


第14話「これから…」より/フユくんのもう一つの「生まれつき」のこと

檸檬 本当にすてきなご家族で…。

千葉 生まれてすぐに違和感あったんですけど、あとから先生がきて説明を受けて、やっぱり…って…。私のせいだって思っちゃいますよね、それは。いくら遺伝じゃない、違うんだって言われても。妊娠中臨月に某アイドルのコンサート(しかも地方二箇所…)に行っちゃったし…とか…。

檸檬 私も出産2日前に宝塚を観に行ってました!

千葉 あ、そのあと病院の先生も「行くよね!」って言ってたとこ、よかったです!!


『れもん、うむもん!――そして、ママになる――』(はるな檸檬・新潮社)より

檸檬 うちの子には、今のところとくに変わったところはないんですけど、こういうちょっとしたことって、どんなに小さなことでも、母親にとってはすごく大きいことだと思うんですよ。子供に違うところがあるっていうのは、胸にくると思うんですよ…。

千葉 そうですね。歩けないかもって言われたことはすごくショックでした。でも、結局歩けましたしね。あと、フユが小学校高学年の時、溶接の仕事をしているうちの弟が機械にはさまれて手の人差し指の肉が縦半分もげるという事故にあいまして…。

檸檬 えええええっ、それって、元には戻らないんですか?

千葉 骨は無事だったのでだんだん肉はついてきました。ほかより細いし見た目は悪いけど、日常生活は大丈夫で。その事故があってから、大人になってけがや病気で指がなくなることもあるんだな…と。フユ本人も、更に見た目を気にしなくなったし、私自身、自分を責める気持ちがなくなりました。なので、「明るくいこうぜ!」という感じで。

檸檬 この本を読んでいて、全体的にいろんなことと照らし合わせて……たとえば、古い知り合いにすごく空気が読めない人がいたんです。話している時にすごく変な角度で入ってきたりして、家族とすら話が合わなくてちょっと孤立したりしていて、どうしてそうなるんだろうと思ってたんですけど、今思うと発達障害だったのかな、かわいそうだったなっていうのを思い出したりして…。
 もちろん、これに限らずとも、苦しみを抱えている子はいっぱいいるんだろうなあと思って、胸に来るものがありました。


第14話「これから…」より

――共通して、どんなものでも苦手をちゃんとわかることで、苦しみが軽減されることはあると思いますね。

千葉 そうですね。フユも、家で一人でいるのがいちばん楽だって言ってます。人付き合いが苦手なんですよね。影でなにか言われてるかもしれない…と考えてしまいがちなので、しんどいみたいです。なので、私は「人生のうちに2人くらい友達がいたらいいよ」って言ってます。

檸檬 2人いたらいいですよね、本当になんでも話せる友達なんて1人いるだけでも奇跡ですよ。

千葉 今友達がいないからって騒ぐほどのことじゃないよ…って。

――同じ最終話、「だんだん欲張りに…」というシーンで、この本のデザイナーさんもここで泣いたとおっしゃっていました。デザイナーさんもお母さんなんですけど…。

檸檬 ほんとわかります。すごくいい本で…泣きました。友人知人に配り歩きます。

千葉 あああありがとうございます! 私は実は『ZUCCA×ZUCA』の最終回で泣きました。妊娠中にも行ったと言いましたが、某アイドルのヲタだったので、誇らしい気持ちがよくわかって…。あと、3人目のアキくんの帝王切開の日はそのメンバーの誕生日を選びました……!

檸檬 やばーーーい!!(共感の叫び)

――対談って、思ってもみない方向に話が転がりますよね(笑)
はるな檸檬さんと千葉リョウコさんの対談は今回で最終回です。『うちの子は字が書けない』の試し読みはこちらからどうぞ。

『うちの子は字が書けない~発達性読み書き障害の息子がいます』発売中!

壮絶な妊娠、出産体験を描いた『れもん、うむもんーそして、ママになるー』

誰にでも「苦手」はある――とはいえ、全員が「特別扱い」は難しい 千葉リョウコ×はるな檸檬対談(3)

※本対談は2017年7月~8月にcakesに連載されたものを、許可を得て転載しております。

第3回 誰にでも「苦手」はある

2歳で「ラーメン」「カレー」が読めていたのに…!!

――檸檬さんのお子さんは、2歳だと読み書きはまだ…ですよね?

檸檬 読むのもまだです。なので、うちの子がどう…っていうのはないんですけど、読んでいて「全然ありうるな」と思いました。

千葉 フユが2歳ぐらいのときに、券売機に「ラーメン」「カレー」「そば」…とかって書いてあるのを見て「ラーメン」と「カレー」を読んだ…ということがあったんですよ!

檸檬 2歳で? すごい~!!

千葉 作中でも描きましたが、食べ物にすごい執着があって(笑)絵本も大好きだったので、字が読めるとかじゃなくて形で覚えてたのかなって。本当にラーメンとカレーしか覚えてなかったと思うんですけどね。

檸檬 絵本が好きで、字を判別できて、そこから読み書き障害って予想もしないですよね!

千葉 そのときは、「こんなちっちゃいのにラーメンとカレーが読めるなんてこの子天才かも!?」って思いました。図鑑も隅から隅まで読んでたし、花を摘んではこれはこの花って図鑑で調べたりしていたので、本当にまさかっていう感じで…。もし読めないんだったらもっと早くわかっていたかもしれないんですけど、重症度がそんなに高くなかったので。


第2話「全く書けないわけじゃないけれど」より/図鑑を隅々まで読んで覚えていた就学前のフユくん

檸檬 インプットはいいけど、アウトプットができないってことなんですか? 再現できないというか…。

千葉 仕組みはよくわからないんですけど、本当は読みもそんなに得意ではなくて、漢字なんかも前後の文脈で読んじゃうみたいなんです。語尾を飛ばして読んだり、読み間違えたりもするんですけど、そのくらいは誰にでもあるじゃないですか。思い込みだったり、自分がそのほうが読みやすいからとか。なので、全然気づかなかったです。いや~びっくりしました。

檸檬 名前がついて、「こういう障害です」って確定するってすっごい大きいことじゃないですか。腑に落ちる、わかるってこともあるし、名前がついていいこともあると思うんですけど、逆に、あらゆる人に障害といえるものってあると思うんです。

千葉 程度の差はあれど、苦手がないひとなんていませんよね!

檸檬 私はほんっと歴史がダメなんですよ。何を聞いても「もう死んでんじゃん!」って思っちゃって…。興味がなさすぎて、いくら覚えようとしても全然入ってこないんです。興味あるなしもサボってるとかじゃなくて、努力してもできなくて。それはいろんなひとにあらゆる方向であるんじゃないのかなあって。


第13話「フユの葛藤と将来のこと」より/努力が足りないと言われるフユくん

千葉 わかります。最近、なんでも発達障害って言い過ぎだなって思うところもあるんです。いちばん下のアキも学校でじっと座ってるのが嫌だったり、みんなと同じことをしたくなかったり…苦手な部分があって。
 真ん中のナツも絵を描くことが大好きで、絵は5時間、6時間ずっと描いてるんですけど、部屋の片づけできないですし、順序立てて複数のことをやるのが苦手なんです。寝る前に「歯を磨いて、(ぜんそくの)薬を飲んで吸入して、部屋を片づけてから寝なさいね」って4つやることを言うと、最初の1つしかできないんですよ。歯磨きだけして「おやすみ!」って寝ようとする。
 でも、だからといって生活に支障があるかというとそうでもない…歴史だってそうですよね。

檸檬 全然ない!歴史マンガ一生描かないし!(笑)
 ほんとに、みんなにそういう苦手なことはあると思うんですけど…名前がついた途端、お互いがなんか理解できるというか、納得して、支えたりできるじゃないですか。名前がない間はぼんやりとして、どう対応したらいいのかまわりもわからないまま、なんだろこれって不満だけがつのったりしちゃうんですけど。だから名前がついてよかったな、と思います。だけど逆に言うと、みんなに不得意なことがあるんだから、みんなが同じことできると思うこと自体が間違いじゃないのかな、と。

千葉 ふつうってなんだよ、って話になりますよね。

檸檬 みんなが40点以下とっちゃダメとかって、そんなの全員違うのに…知らんがな!って。学校ってすごく不自然な場所ですよね。

千葉 それそれ! 40点以下は赤点って言われても…!! こっちは88点取れてるのに、ひとつ赤点があったらもうダメなの? 留年しちゃうの? 平均してよ!って思ったりするんですけど……



第13話「フユの葛藤と将来のこと」より/障害だとわかってほっとするフユくん

「全員が特別扱いを受けるべき」とはいえ……

――単行本収録の宇野先生と千葉さんの対談でも、宇野先生が「全員が特別扱いを受けるべき」とおっしゃっていましたね。ひとりひとりが特別扱いを受けるべきで、一律に判断するのは無理がある、と。

千葉 メガネと同じなんですよね。目の悪いひとは、メガネという文明の利器があるから、みんなと同じように授業を受けられているけど、もしなかったら、同じようにはいかないですよね。
 前に、専門機関の先生が冗談のように言ってたんですけど、「何年か後には、口頭で答えたいひとこっち~!書いて答えたいひとこっち~!って分けて試験ができたらいいのにね」って。きっと書くのが苦手かどうか聞いたら、けっこう集まると思いますよ、って。

檸檬 これからどんどん変わってくるんじゃないでしょうか。

千葉 実際、もう外国では口頭の試験が導入されているところもあるそうです。

檸檬 知識ってもうメリットにならないですもんね。携帯やパソコンですぐ調べられるし。応用のほうが大切ですよね。学校が何を見たいのかというのと、本来は文字を書けるという運動能力を見たいわけじゃなくて、勉強してきたことを理解できているか…ですし。きっと今は単純にそれをやるには手が足りないんでしょうけどね。

千葉 物理的に難しいですよね。学校の教員に部活の指導までさせていいのか、なんてことが最近すごく取り上げられてますけど、まだまだその段階なので……。教員をあと3倍くらいの人数にしたら、もうちょっと細やかに対応できるんじゃないかと思うんですけどね。

檸檬 先生自身だって、時間があれば対応したいって思っているかもしれませんし、先生になりたくてなれない人もいっぱいいますよね。

千葉 ただ、専門機関の先生によると、読み書き障害かどうか判断するテストをできる先生を育てないといけないんだけど、その育成にもすごく時間がかかるそうで……いい制度はできてきているんですけど、運営する人の教育が追いついていないんですよね。現状。もうちょっとこう…やり方をなんとかできたらいいのに……って、私は考えることくらいしかできなくて(苦笑)

檸檬 こういう本が出るのは有意義だと思います。いろんな人が知るっていうのはすごく大事ですよ!


第4話「誰も気づかなかった原因」より/どうして発達性ディスレクシアはこんなにも認知度が低いのか

千葉 ありがとうございます。一人でも二人でも、こういう道があるのかって教える側の道を志してくれる若者が現れるかもしれませんしね。ボーイズたちのラブばっかり描いてないで、1冊くらいは世の中の役立つ本を…!!という思いが実現しました(笑)

檸檬 腐女子の役に立ってますよ!

千葉 いやそれはBLの読者さんにもたくさん言っていただいてて光栄なんですが(笑)違う角度からもっと…せっかっく漫画を描いているのだから、それで社会貢献できればいいなと思っていたんです。なので、ちょっとでも役に立てたら嬉しいです。

檸檬 本当に意義深いと思います!

『うちの子は字が書けない~発達性読み書き障害の息子がいます』単行本発売中!

子どもの幸福とは何か。進路、就職、将来のこと… 千葉リョウコ×はるな檸檬対談(2)

※本対談は2017年7月~8月にcakesに連載されたものを、許可を得て転載しております。

第2回 子どもの幸福とは何か。進路、就職、将来のこと…

――ひとり育児と、二人目の産後鬱で落ち込んでいる千葉さんに、フユくんの「字が書けない」問題が浮上して…? 

精神の不調、学校への相談、通級を経て、ようやくわかった「原因」

千葉 夫婦の役割分担というか、夫は家のこと・子供のことには口を出さないことになってたんです。その分仕事を一生懸命やってきてって。でもそれにも限界が出てきて…子育てがあまりにも辛くて、私自身が心療内科に通った時期があったんです。「どうして子育てがこんな大変な状況なのに夫は助けてくれないんだろう」って思っちゃって、夫に腹が立ってたんです。


第3話「字が書けない原因」より/「字が書けないこと」を楽観視する夫に詰め寄る千葉さん

千葉 だけど、心療内科の先生とのカウンセリングで「それ、だんなさんのせいじゃないですよね。怒りの原因をたどると、お子さんの発達のことが気になっていて、どんなに教えてもできないっていうところがネックになっていますよね。それをだんなさんにぶつけているだけですよね? まずはお子さんの発達のことを、相談されてみてはどうですか?」って諭されて、それで学校に相談に行ったんです。そこから通級に通うようになって…。

檸檬 通級に通い始めてからディスレクシアだって判定されるまでも長いですよね。3年以上も…。

千葉 特別支援の先生が見てくれているはずなのに、誰も「読み書き障害」だとは気づかなかったんです。檸檬さんは、「発達性ディスレクシア」のことはご存じでしたか?

檸檬 トム・クルーズのことは聞いたことがあって、読み書きができない人がいるっていうのは知っていたんですけど、こんなに具体的にここまで詳しくは知ったのははじめてでした。

千葉 そうですよね。私も、講演会に行ったのは本当に偶然で。たまたま通級でチラシをもらって行ってみたら、専門機関の先生がお話をしてて、やっとわかった…という…。

檸檬 本当に偶然が重なって…ってかんじですね。


第3話「字が書けない原因」より/はじめて「発達性ディスレクシア」を知った千葉さん

千葉 だから、見つかったのは「ラッキー」ていうと、言い方がアレですけど、今も気づかないで過ごしている子がたくさんいるのかなあ…って。『うちの子は字が書けない』の連載がはじまってから、Twitterの引用RTとか、リプライでご自分の経験を聞かせて頂くことがすごく増えたんですけど、その中に「もしかして私も…」という人もけっこういらっしゃるんですよね。原因がわからず苦労してきた人がいるんだなあと改めて思いました。

檸檬 本に収録されている対談で、監修の宇野先生が同級生とのエピソードをお話しされていたじゃないですか。同窓会で数十年ぶりに会った同級生に宇野先生のされている仕事の話をしたら、「俺もそう(ディスレクシア)なんだよ」って言われたっていう…。

千葉 魚市場で働いている同級生のお話ですね。

檸檬 ああいう風に、読み書きと関係ない仕事について乗り切っちゃうひともいらっしゃるんですね。

千葉 そういうほうがいいみたいですよね。ペーパーテストを受けないといけないような、苦手な方面にあえて行かないほうがいいって、私も思います。

檸檬 宇野先生が、大学は行く必要ないってはっきりおっしゃっていたのがいいなあって思って…! 今、大学を出たひとたちがたくさん失業していたり、手に職があるひとが有利なこともあったりして、ちょうど価値観が過渡期にあるのかなって。

千葉 最近、そういうことも多いですよね。私の友達なんかみんな漫画家なんで…はるなさんもそうじゃないですか?

檸檬 私あまり漫画家の友達が多くなくて…。

千葉 えっ、そうなんですか? やっぱりヅカヲタ…?

檸檬 ヅカヲタの職業は多岐に渡っていて、いろんなところに潜入しているので、「手に職」系が多いというわけじゃないですね。

千葉 『ZUCCA×ZUCA』読んでいても、確かにそうですよね。


『ZUCCA×ZUCA』(はるな檸檬講談社)より/ヅカヲタだった保育園の先生と宝塚劇場で再会する元園児たち

千葉 実は、知り合いの方に「今度宝塚観に行きませんか?」って声をかけてもらって……。

檸檬 えーーーっ、行ったんですか!?

千葉 いや、これからです。11月の…

檸檬 あ、11月! 11月ですね!! よし!! ちょっといろいろ解説とかメールでお送りしていいですか?組やトップや演出家の特徴とかね、前知識あるのとないのでは全く観劇が変わりますから。いろいろ見所とかわかった上で観てもらわないと。

千葉 超欲しい!!! 私、勉強してから行くタイプなんですよ。

檸檬 素晴らしい!! それすごい大事ですよ……って、こんな対談じゃない!!(笑)

――対談って、思ってもみない方向に話が転がりますよね(笑)

檸檬 わっ、すみません…宝塚というとつい…!…えっと、えー、大学!大学に行かなくてもいい道があるっていうのは希望だな、と。

「幸福」は量れない

千葉 本当にそうですよね。うちの子(フユ)も大学に行ける気がしないです。赤点が多いですし。とはいっても、決して勉強ができないわけじゃないんですよ。歴史なんかすごく好きで詳しいんですけど、日本史と世界史だと、日本史のほうが漢字で答えなきゃいけない問題が多いから点数が格段に低い。


第11話「赤点という壁」より/好きで詳しいはずの日本史で赤点をとってしまったフユくん

千葉 でも、点数が取れる世界史よりも好きで勉強してて、選択科目でも楽しい日本史を選ぶって言うんです。確かに、興味の薄い授業を受けるより、点数は取れなくても楽しいほうがいいよね、って。とにかく留年さえせずに卒業できればいいんだから…と思っています。卒業後は料理の専門学校って自分の中で決まっているようだし、楽しく高校生活送って欲しいと。

檸檬 幸福は量れないですから。大学を出ていいお給料もらっていても幸せじゃないひともいるし。傍目には幸福そうに見えても…。そういう意味では、そもそもフユくんの場合は、家族のなかに愛情があるなあって読んで思って、そのことがすばらしいなあって…。

千葉 最初の話に戻りますけど、自分が辛いと子供達も辛いんだなって、私が精神的に参っているときに思ったんですよね。カウンセリングでアドバイスをもらったように子供の発達のことを一生懸命やりはじめたら私自身は元気になってきて、そんなに長く(心療内科には)通ってはいないんですけど。


第14話「これから…」より/「いつもニコニコしてな!」とフユくんに語る千葉さん

千葉 ディスレクシアだとわかってからは「この子はこうだから、これでいいんだ!」って思い切れるようになったんですよね。最終回(単行本収録の14話)で描いた「いつもニコニコしてな!」っていうのは、もともとうちの母(フユくんの祖母)が私によく言ってたことなんですよ。表面上だけでもニコニコしていたら、それが本当になることもあるかなって。

檸檬 引っ張られるってこと、ありますよね。お母様も素晴らしいなって思いました! 単行本描き下ろしの4コマ読んで感動しました。

千葉 よく「あんた偉いわね」って言ってくれるんですよね。ただ…子供に対しては褒めるばっかりっていうのも…できませんよね。檸檬さんは褒めてますか?

檸檬 あ、私は褒めしかしないんです。

千葉 えっ、えらすぎる! スゴすぎる!

檸檬 わりとうちの子が、感じやすいというか、敏感ですっごくマジメなんですよ。まだ2歳なんですけど、保育園の様子とか見ていると、たとえば「片づけよう」って言われたら、片づけている間に私がお迎えに行っても、必ず片づけが終わってからでないとこっちに来ない…というようなマジメなところがあるので、注意すると真に受けすぎる感じがして、できるところを褒めるほうに…。子供の性格にもよると思うんですけど。


「子育てデレデレ日記」#2(はるな檸檬講談社)より/包丁の入っている引き出しを開けたらダメだと注意したら……

千葉 あ~うちのいちばん下の子がそれに近いかもしれません。4歳ぐらいまで憎いと思ったことがなかったので(笑)

檸檬 憎い(笑)

千葉 上の子2人はけっこう憎いと思うときありました(笑)

檸檬 兄弟で全然キャラが違いますよね。

千葉 違いますね! 真ん中の子は完全にオタクですし…。

檸檬 兄弟のなかでいちばん天真爛漫そうですよね。

千葉 ほんとマンガの通りの性格で、いつも明るくてポエムなことを言っていて、夢いっぱい…って感じの子です(笑)

――第3回は、「障害」と名前がつくこと、「特別扱い」についてのお話しです。2歳で「ラーメン」「カレー」が読めていたのに、いつまで経っても字が書けるようにならなくて…⁉
『うちの子は字が書けない』試し読みはこちらからどうぞ。

『うちの子は字が書けない~発達性読み書き障害の息子がいます』発売中!!

「いろんなところに潜入している」ヅカヲタのことがもっと知りたくなったら
『ZUCCA×ZUCA』(全10巻)を!

観劇前には、宝塚の魅力を徹底解説した『タカラヅカ・ハンドブック』で予習を!

ひとり育児と産後鬱のところへ「字が書けない問題」が発生 千葉リョウコ×はるな檸檬対談(1)

※本対談は2017年7月~8月にcakesに連載されたものを、許可を得て転載しております。

第1回 ひとり育児と産後鬱のところへ「字が書けない問題」が発生

妊娠・出産は壮絶な体験!?

――『うちの子は字が書けない』を読んで、はるなさんが感動されていたと担当さんからお聞きしたのですが……。

はるな檸檬(以下、檸檬) すっごく感動しました! なかでも親子の愛情がいちばんの感動ポイントでした。千葉さんのお母さんからの流れもあって、親が子供を思う気持ちにすごく胸をうたれました。そしてこの障害自体が世の中に広まるいいきっかけになりそうで、有意義な本だな…と思いました。

千葉リョウコ(以下、千葉)なんてやさしいんでしょう~~! 私もはるなさんの『れもん、うむもん!―そして、ママになるー』、読んで共感しました。産後はほんといろんなことに対してくそーって思いましたもん(笑)

檸檬 わー、ありがとうございます。なかなか壮絶ですよね、妊娠出産という体験は。


『れもん、うむもん!――そして、ママになる――』(はるな檸檬・新潮社)106ページより/新生児育児に疲れ果てたはるな檸檬さんの実感のこもったひとこと

千葉 私は1人目が普通分娩、2、3人目が帝王切開だったんですけど、出産2か月前くらいから生まれるまで前駆陣痛がひどくて、とにかく痛くて…!! 早く生みたい…って思って過ごしてました(笑)

檸檬 3人ってすごいですよね。ほんと…すごい…!! 育てる段階でも大変だろうと思います。マンガを拝見してたら、どの子もいい子に育っていて、千葉さんってとってもいい親御さんなんだろうなって…。

千葉 とんでもない! 娘と掴み合いのケンカとかしてますよ! 次の日にはごめんねってお互い謝るんですけど…(笑)


第10話「努力の結果」より/長女ナツちゃんとの親子ゲンカ

檸檬 そこも含めて、自分の欲とか、自分がどう見られるかとか、こういう風に見られたいとかじゃないところでやってらっしゃるのが伝わってきて、そこがすごくすばらしいと思いました。

千葉 ありがとうございます!

檸檬 お金かかるからごめんね、忙しいからごめんね…とかフユくんがすごい言ってたじゃないですか。私、本当に何も考えてないクソガキだったので親にそんなこと思ったことなくて、だからそういうこと思える子に育ってるのが、いい親御さんだなって。

千葉 彼は、お金は大事だと思っていて…くそマジメで「世の中でいちばん怖いのは癌だ」とか言ってるタイプなので…(笑)

檸檬 しっかりしてらっしゃる!

千葉 そうですね、しっかりはしてますね。でも、ほら、親ってね、できる限りのことはしてやりたいじゃないですか。


第10話「努力の結果」より/お金や時間を心配をするフユくん 

檸檬 子供を思いのままにしたいとか、なんで思い通りにならないの?って思っちゃうひとって、実はけっこう多いと思うんですよ。それが全然ないのがすごいことだと思います!

千葉 それは、宇野先生と話をするようになってから変わったのかも。LDディスレクシアセンターに通い始めてから、「子供に自分で決めさせなさい」ってすごく言われたんですよ。「やるのかやらないのか君(フユくん)が決めて」って。

子供自身に決めさせないと、すぐ親のせいにするから(笑)

千葉 高校卒業後の進路を料理の専門学校にしようかと言い出した時、まず私が探してきた学校の中から何校か体験入学に行ったんです。でも、こんなにたくさん専門学校があるんだから、「自分でももっと探して選びなよ」って言いました。子どもってあとで絶対「お母さんがそうしろって言ったから」って文句言うから(笑)


第6話「たのしい研究協力の旅」より/必ずフユ本人に確認を取る専門機関の先生たち

千葉 自分の思い通りに…というか、親が選んだほうが、向いていることもわかるし、間違いがないってわかるじゃないですか。自分で決めた回り道をするよりも、まっすぐな道を示してあげられるというか。でも、私が一本の道しか示さなかったら、失敗した場合に、あとから絶対親のせいにすると思うので。振り幅をつくっていくつか候補を上げて選ばせるというか…。最終的に困ったらいつでも相談してって言ってますけど、それも、「アドバイスはできるけど、決めるのは自分だよ」って。

檸檬 それがすばらしいです!

千葉 ナツやアキに対してもそうですよね。自分で選んできたっていうことが大人になったときに本人の自信になるし、誰のせいにもせずに自分で決められる人になってくれるかなあ、なんて言うと大層ですけど。その方が親にとってもある意味楽だしなあと…(笑)

檸檬 いい教育をなさってるなあ。

千葉 だって大人になって……30歳くらいになっても「お母さんのせいで」とか言われるの嫌じゃないですか(笑)

檸檬 いやいやいや、幸福を願っている感じがして、愛を感じます。

千葉 まあ、かわいいですからね。いくら私より大きくなってヒゲがはえようが……。

檸檬 ヒゲ!(笑)なんだろう、読んでいて、優しいなあってすごく思いました。

千葉 優しくあろうとしてはいますね。お兄ちゃん(フユ)に障害があるとわかったあとに、「今まで厳しくしてたな」って思ったんです。2人目を産んだあとも産後鬱じゃないですけど、落ち込んでいた時期があって、そこに「ひらがなが書けない」っていう問題が1年生くらいに出てきたんですが、うちは夫が全然手伝ってくれなくて……。

檸檬 お忙しいって、マンガにも描かれてましたね。


第6話「たのしい研究協力の旅」より/仕事が忙しく、家にも毎日帰ってこられないお父さん。

千葉 そうなんです。ちょっと特殊な仕事をしていて、ずっといなくて…。もちろんお互いそれはわかっていて結婚したんですけど……

檸檬 それで3人は大変……!!

――第2回は、発達性ディスレクシアだとわかってからのこと、発達性ディスレクシアの子どもの将来についてのお話しです。
『うちの子は字が書けない』試し読みはこちらからどうぞ。

『うちの子は字が書けない~発達性読み書き障害の息子がいます』発売中!!

壮絶な妊娠、出産体験を描いた『れもん、うむもんーそして、ママになるー』

うちの子は字が書けない

『うちの子は字が書けない』千葉リョウコ(ポプラ社)2017年7月7日発売

40人学級に3人いるのに「誰も気づけない障害」を実体験をもとに描いたコミックエッセイ。

主人公は、著者でマンガ家の千葉リョウコさん。
千葉家の長男・フユは、小学2年生になってもなかなか字が書けるようにならなかった。
ノート1ページの漢字練習に1時間かかる、黒板の字を写しきる前に消されてしまう……

他のことは問題なくできるのに、なぜ?

原因を探ってみても、なかなか理由はわからなかった。

フユ小学5年生の夏休み。
教育委員会主催の講演会で知った、「発達性読み書き障害(発達性ディスレクシア)」。

知的発達に問題がなくとも読み書きだけが困難。
何度書いても字が覚えられない。
読みは文脈で読めるけど書くほうでは間違える…。

それはフユの状況にぴったりとあてはまっていた。
専門機関の検査を受け、フユは「発達性ディスレクシア」だとわかった。

障害は、病気ではないので「治る」ことはない。
でも仕組みや特性をよく知って、適切なトレーニングをすれば、今よりも字が書けるようになる。
今、障害に気づけたことに、とても意義がある。

監修の宇野彰先生(筑波大教授、LD・Dyslexiaセンター理事長)との対談を加え書籍化。